タイトルと見出し
このサイトでは、一部のページの名前をインキピット[1]にしてゐる。
文章の冒頭数語のことをその文章のインキピットと言ふ。書物にタイトルを付けることが一般的でなかった時代に、書物を参照するために使はれてゐたらしい。
一昨夏、あるウェブ上のニュース記事のタイトルが誤解を招いてゐることを指摘するツイートを見た。COVID-19 に関する記事で、そのタイトルだけを見れば不安を煽られるやうな表現だったが、本文と合はせて見ると自然だった。私はそれを見て、「そのタイトルは紙上では見出しだったのでは?」と思った。結局、その記事は消えてしまった。
見出しとタイトルは違ふ。新聞記事の見出しは、その記事に何が書かれてゐるかゞ一目で分かるやうにするためのものであって、記事の内容の要約でもなければ、記事のタイトルでもない。見出しは、それが目に入る時にはリードや本文も見えてゐるので、多少曖昧な表現が使はれてゐても、紙上で読み間違はれることは少ない。けれど、さういふ新聞のための見出しも、ウェブ上の記事のタイトルとして流用されると、記事の見出しとしてゞはなく、ウェブページのタイトルとして解釈されてしまふことがある。
これを回避するには、記事の名前に見出し以外のものを使ふとよい。インキピットのやうな、記事の内容を理解させようとしてゐないことが一目で分かる種類のものや、要約のやうな、記事の内容を理解させられるものが適当だと思ふ。
作品の識別に使ふことができる情報には、タイトルと見出しの他に、抜粋、要約、インキピットなどがある:
- タイトル
- 作者や編輯者などが作品に付ける名前。見出しやインキピットとは異なり、恣意的に付けることもある。
- 見出し
- 続く部分が何であるかゞ一目で分かるやうにしたもの。普通は1行。タイトルとは異なり、必ず作品の内容から付ける。要約とは異なり、最も重要な事柄を省くことがある。
- 見出し
- 記事の見出し。
- 抜粋
- 作品の内容の一部を抜き出したもの。インキピットとは異なり、抜き出す部分は自由に選ぶ。
- 要約
- 作品の内容を短く纏めたもの。見出しとは異なり、最も重要な事柄を必ず含む。
- インキピット
- 作品の内容の初めの数語。書物の名前として使はれた。タイトルとは異なり、規則的に決まる。抜粋とは異なり、必ず冒頭から抜き出す。
どこまでをインキピットとするかは記事を書く時に恣意的に決めてゐて、これは本来のインキピットとは少し異なる。 ↩︎